第1章 This is insane
「山田!相澤!探したよ!」
背後で、アイツの声がした。
ぱたぱたと、季節外れの春風が舞う。
「なんの話してたの?」
「俺たちの関係ってなんだろうなって」
「音無にはちょっと難しい話だ」
支え合うだとか、補い合うだとか、大切に守るとか、そんな生温い関係なんて似合わない。
削って削られて、抜いて抜かれて。
生きる、死ぬ、笑う、泣く。
「お前ら二人は友達なんかじゃねぇ。ライバルなんて俺にはいらねぇ」
フェンスに背中を押し付けて相澤が言うとアイツは俺の顔を見る。
「えっ、なに……なんか私、悪い事した…?」
「俺も相澤の意見に賛成だ」
「なに、どうしたの?喧嘩?」
くるりとまた相澤が校庭の方を向く。静かに細いアイツの肩を抱き、俺が口を開く。
「でもいつか、ヒーローになったら現場で暴れまくって、肩組んで帰ろうぜ」
十六の俺が見つけたその気持ちは、友情や愛情なんてものじゃあ足りない気持ちだった。
それを知れたのは、あの日があったから。
「なんなの……二人共意味わかんない」
「分かんなくていいよ」
「いつか千夏も分かるって」
いつか誰かが結婚したら、きっと晴れかな気持ちになるだろう。まるで自分の事のように。
これが俺の見つけた初めての恋。
歪で、曖昧で、変で、それでいて瑞々しい。
「帰ろうか」
「あぁ、帰ろうぜ」
いずれ、傷だらけの背中になるだろう。
「待ってよ!本当に意味わかんない」
それで良い。その時だけは、肩を貸そう。
そして、必ず笑って帰ろう。