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ドルフィンを待つ夜【インディゴの夜】

第3章 別れ


 それから、数週間も経たないうちだった。テツが歩美に関わる事件で足に怪我をして、しばらくお店を休みがちだったと思ったら、朝のテレビのニュースでテツの顔写真が出ていた。殺人犯、『河村桃子』として。
――テツくんが女の子? 殺人? どういうこと?
 疑問が風音の頭を駆け巡った。だが、同時に、今まで不可解だったことが、全て、テツが女性だったという事実で、はっきりしたような気もした。
 早朝でホストには迷惑だろうと分かっていたのに、思わず、犬マンに電話していた。
 長いコールの後、疲れた声で犬マンは電話に出た。
「もしもし。風音ちゃん? ごめんな。すぐに電話に出られなくて」
「犬マンさん、テツくんが、テツくんが……!」
 聞きたいことはいっぱいあったのに、こんな時まで優しい犬マンに、最初に出たのは嗚咽だった。
「ニュース、見たんだ?」
「……うん」
「テツが女だって知って、ショックだった?」
 なだめる口調の犬マンが冷静であることに気付く。涙を抑えて、風音は言った。
「テツくんが女の子だって知ってたんだね、犬マンさん。だから、私に、テツくんが私の思っているようなヤツじゃなかったら、なんて言ったんだ」
「知ってたよ。……だから、テツが心配で、ずっと見守ってた」
 どこまでも穏やかな口調の犬マンに、風音はもうなんと言っていいか、分からなかった。すがるように尋ねる。
「テツくんに会いたい。……ダメかな?」
「面会はできると思う。店長から豆柴に面会を許可してもらえるように頼んでもらうよ」
「マメシバ?」
 犬の名前を突然出されて、きょとんとする風音に、「ああ、ごめん」と犬マンは少し笑った。
「渋谷署の警察官の柴田さんに、店長から頼んでもらうってこと」
 なぜ、犬マンが「豆柴」と言ったのかは、「柴田さん」に会ったら、すぐに分かった。小柄で、犬っぽい顔立ちの上、声が甲高いのだ。お腹の中でこっそり笑いをこらえる。
「面会は私が立ち会う。面会時間は五分。事件に関する話題はしないこと」
 偉そうに甲高い口調で命令されたが、風音はテツに会えるならと、必死でうなずいた。
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