第13章 決意表明。
「……ッぐ、難しい……」
「…そうか?教科書見りゃわかるだろ。」
転入試験。わたしに与えられた、最後のチャンス。入試の筆記ですら自己採点ギリギリだったわたしは、中間5位の轟くんに勉強を教えてもらうようお願いした。
範囲は中学の基礎と応用。入試の時とほぼ変わらない、と案内のプリントには書いていたが、だからと言って全く同じとは限らない。
「数学ってほんと…苦手なんだよね…数字の羅列に英文字出てきたらもう終わりじゃない…?」
「そりゃ公式だろ。結局は全部数字に置き換えるんだから。」
ん~ッと伸びをして床に寝転がる。先月買ったばかりの絨毯が気持ちいい。
やっぱり勉強はあまり好きじゃない、というかわからないからつまらない、と言った方が正しいか。
すっかり意気消沈したわたしを見て轟くんが小さくため息をつく。
「…まあ基礎は出来てるし平気だろ。お前より馬鹿な奴も入学できてる。」
「そうなの?じゃあ…頑張んないといけないのは実技かあ、」
正直実技も自信が無い。実技の内容も入試の時とは違うものだと知らされている。
短期合宿で多少なりとも個性の応用の幅は広がったが、それでも本番でいざ使えるか否かと言われればはっきり言って微妙、だった。
ふと、窓の外に提灯が見えた。
「そだ!縁日!」
「縁日?」
「そう、確か今日近所の神社でお祭りあるんだよね。行かない?」
「…勉強、したくないだけだろ。」
「……ばれた?」
ばつが悪そうに笑うわたしを見て轟くんも小さく笑う。これはOKと捉えて良いのだろうか。
夏祭りなんて、何年ぶりに行くだろう。中学1年の時はお父さんのことで至極落ち込んでいたし、2年からはずっと雄英に行くことしか考えていなかったし。
何より、轟くんと行けることが嬉しかった。こんなことなら浴衣も買っておけばよかった、なんて考えながらわたしは放棄した教科書に向き合う。
夜には花火が上がる。これってまるで、デートみたいだ。