第1章 わたしだって、ヒーローに。
…今日会った変な女。
怖いくせにヴィランに立ち向かって、俺と子供を助けようとした、隣町の高校の女子。
「ご、ごめんなさい、わたしのせいでこんな時間まで…」
自分のしたことを悔いているのか、さっきからずいぶん落ち込んでいるようだった。
こいつに謝罪の言葉を投げかけられるのはこれで何回目だ。いい加減少しうっとうしい。
…時間が経てば経つほどそいつの表情は暗く、悲しげに下を向く。…月、綺麗なのにもったいねえな。
不意にそいつに目を向けると、細く色素の薄い髪が月明りに溶けていて、やけに綺麗に見えた。歩みを止め、若干縮んだ距離。
「どうした」
「へっ?」
「顔色、悪い」
よく見ると珍しい瞳の色をしていた。
はっと前を向いた瞳は涙こそなかったものの、今にも泣いてしまいそうで、放っておけなかった、…んだと、思う。
なんとなく、家の近くまでついてきてしまったが、俺の家はこっちじゃない。…まあ、こんな時間に女を一人で帰らせるのも、ヒーロー志望としてどうなんだ、ということにしておく。
本当は、放っておけなかったんだと思う。月明りに溶けた髪が、今にも泣きそうな瞳が、その夜は忘れられなかった。