第2章 わたしの、個性
私たちはそそくさと一目から逃げるように近くの河原の橋の下に移動した。小さい頃、嫌なことがあるとここに逃げ込んで泣いていた。いわばわたしの秘密基地だ。
「…わたしの、C判定の理由。単純に、弱いから、です。」
「?お前は弱くねえ。うちに居ても全然おかしくねえし」
「あの時は本当にたまたま、うまくいっただけ。いつも学校の戦闘訓練じゃ、…全然、だめで、」
ああ、自分で言ってて泣きそう。
そうだ、わたしはいつもどんくさくて、逃げてばかりで、ヒーローになりたいって思ったのも、そんな自分を、変えたかったからで。
あの日子供を助けようと廃ビルに飛び込んだのは、確かに勇気だったのかもしれない。けど実際に犯人を目の前にしたら、怖くて、逃げたくて仕方無かった。雄英生の手前、かっこつけたかったのかも。雄英生を助けたっていう、名誉がほしかったのかも。
わたしにもっとちからがあれば、お父さんは死ななかったかもしれない。お母さんは悲しまずに済んだかもしれない。そんなことばっかり考えて、一方に前に進めない自分が嫌になる。
「…おい」
「へ、!?」
「自分で言って自分で泣きそうになってんじゃねえ。」
「そ、そんな顔してました…?」
ああ恥ずかしい、なんだかこの人には恥ずかしいところを見られてばっかりだ。情けない。
「…今度の短期合宿、お前のとこと一緒だって聞いた。相澤先生が、お前の学校に気になるやつ居るって言ってた。…俺は、お前のことなんじゃねえかと思ってる。」
「ま、まさか…」
そんなこと、あるわけない。目立った攻撃手段を持たないわたしは雄英の実技入試、得られたのはわずか4ポイント。
そんなわたしが、雄英の教師の目に留まるなんて都合の良いシンデレラストーリー、とても信じられる話じゃない。
「別に確証があるわけじゃねえから変に期待しない方がいい。…が、お前は少し自信持った方が良いと思う。」
「…!」
自信。
今のわたしに、足りないもの。
「…もしかして、励ましてくれてるの?」
「…そんなんじゃねえ。」
「ありがとね、えっと…轟くん。」
轟くんはもう一度そんなんじゃねえ、というような視線を向けた後、見舞いがあるからと帰ってしまった。
轟くんが渡してくれたC判定の用紙を握りしめる。
短期合宿まであと、一か月。