第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「……なんで」
「鈍いな」
「な――っ」
聞きたい事は山程あった。
それでも上手く頭が回っていない私が絞り出す事の出来た言葉はこれだけだった。
それなのに跡部くんは鼻で笑う様に私に先程の台詞を吐いた。
その返事にムカついて何か言い返してやろうと意気込んだ瞬間だった。
「お前のことが好きだからだ。恋愛的な意味でな」
「……え」
跡部くんはそう言って笑ってから、彼の机の上に置かれていた先生への提出用の書類を持って生徒会室を出ていってしまった。
そんな彼の後ろ姿を、私はポカーンとしたままに見送った。
そして無意識に自身の唇に触れる。
先程までの跡部くんとのやり取りを思い出して顔が一気に熱くなるのを感じた。
――跡部くんが私を恋愛的な意味で好き?
からかわれたのでは?とも思ったが真剣な眼差しを思い出して、彼はそんな質の悪い冗談は言わないと確信する。
そして私は今までライバル視しかしていなかった彼からの衝撃的な言葉に頭を悩ませた。
どうしようと思いながら、再度触れられた唇を無意識にふれる。
彼に口付けられたことが嫌ではなかったと気付いてしまって、私は遅れてやってきたドキドキと煩く鳴り響く心臓を抑えながらどうしようと再度頭を悩ませる。
きっと彼のことだからすぐに職員室から帰ってきてしまうだろう。
私はこの後、どんな表情をして彼に会えば良いのだろうか。
どうしたら良いのか混乱した頭で必死に考える。
私と跡部くんの関係性の変化まであと数十分といったところだった――。
Fin.