第5章 嫌い×好き=? 【跡部景吾】
「……」
氷帝学園中等部の廊下。
貼り出された期末試験の結果を見て私は立ち尽くしていた。
今回はかなり調子が良かったと自負していた。
絶対に負けないと思っていたのに…思っていたのに――。
「【名前】ちゃん、今すっごい顔してるよ~~」
隣にいた友人の【夢主友名前】ちゃんが、のほほんとした声音で私に告げる。
そんな事は言われなくても分かっていた。
自身でも酷い表情をしているだろうなとは頭で理解出来ていても冷静になる事が出来なかった。
「なんや。また跡部が1位かいな」
「…うわっ。【名前】すっげぇ表情」
いつの間にか貼り出された結果を見に来ていた忍足くんと向日くんがそれぞれ感想を述べる。
向日くんは貼り出された結果よりも先に立ち尽くしていた私を見たようで遠慮なく表情の感想を述べられた。
幼稚舎からの付き合いがあるからこそ言える物言いだった。
「ごきげんよう」
私が心にもないあいさつを述べると、向日くんの表情が若干凍るのが分かった。
だけれども私も変なプライドが邪魔をして取り繕う事なんて出来ず、まだまだ未熟だなと心の中で一応反省しておいた。
でもまだイライラするので向日くんに直接謝りはしなかったけれど。
落ち着いた時にでもきちんと謝罪しておこうと思った。
「【名前】ちゃんもいい加減張り合うの止めれば良いのに。心の平穏の為に」
「……それが出来ないからこんな表情なんですけど?」
あはは~なんて、【夢主友名前】ちゃんとやり合う。
こう言った会話をしても問題ない所が彼女と付き合っててとても楽な所だなと改めて実感した。
「あ、跡部」
向日くんの言葉に反射的に振り向けば彼に付き従う2年生の樺地くんを連れて丁度このテスト結果が張り出されている廊下へと彼はやってきていた。
彼がこちらに近付いてくるにつれてモーゼが海を渡るかの様に、彼の通るであろう場所にいた生徒たちは退いて行く。
そして彼は何処かからの帰りなのだろうか…?手には書類の束を持っていた。樺地くんが。
自分で持てばいいのにと私は内心悪態をつく。
そんな事を考えているうちに彼はこちらへとやってくる。
私は関わり合いたくないので立ち去ろうと思ったが残念な事に跡部くんから声がかかってしまった。