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【短編集】テニスの王子様

第3章 不器用な人 【財前光】


彼女への恋心を自覚してからはそれがバレない様に気いつけとったが察しのいい人物ならもしかしたら気付いてしまっとるのかもしれへんなとも思った。
前に謙也さんに気ぃ遣われた時は最悪やなと思った。
何だかんだで謙也さんはそういう人の機微に敏感な所があるけれど、バレないように気ぃ遣っとったつもりやった。
ほんでも気ぃ遣われたのやから、それ程にらしくない行動をしとったのやろう。
最悪やと思った。

せやけど彼女自身は特に何も気が付いていない様で今も俺の目の前で黙々と作業をしとった。
真面目に作業しとるのには間違いないが、先輩はどうやら手先があまり器用やないようで何度見てもやっぱり辿々しい手付きで花紙を1枚1枚頑張って持ち上げとった。

その辿々しい手元を見ているとやっぱり手を出したくなる自分もいて、気付かれへんように椅子から立ち上がり先輩の横に座る。
流石に横に座ったのは視界に入って気付いたらしく、俺を驚いた表情で見つめる先輩は間抜けな表情過ぎて面白くて写真でも撮ってしまおうかと思った。

「手伝いますわ」
「いや、財前、自分の分終わってんやろ?ええよ」

私の分は私のだからちゃんとやると主張しとるが、正直先輩の不器用な速度じゃいつまで経っても終わらへんのやないかと思う。
適材適所で得意な方にやらせればええのにそないな事を考えもせんと責任を持とうとする姿勢は真面目なんやなと思った。
そういう所に惹かれてしもたのかもしれへん。

「別に構わないっすわ」

そう言って強引に先輩の手元にあった作成用の花紙をひったくる。
俺の強引な行動が物珍しかったようで驚いていたが、少しだけ嬉しそうにわろて『おおきに』とお礼を言われてしまう。
自分の頬が少しだけ熱くなるのを感じて、それに気付かれたくなくてそっけなく『ええ』とだけ返事を返す。
俺のそっけない返事には特に気に留めていない様で少しだけ減った自身の担当分に取り掛かるために先輩はまた視線を手元へと戻す。
絶対に赤くなってそうなぐらいに熱く感じる頬について触れられなくて良かったと思う自分と、先輩にとって俺は特に気にかける程でもないんやなっちゅう残念な気持ちが混ざり合う。
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