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【短編集】テニスの王子様

第2章 片想い☆クライシス 【忍足謙也】


「忍足くんは誰からやったの?」
「白石や。さっき一緒にいた場所に鞄置きっぱなしにしてたの忘れてたわ」

言われてみれば、確かに学校の制服を着ているのに忍足くんは何も持っていなかった。
私がジロジロと忍足くんの服装を見ていると、慌てて来たから鞄忘れたわなんて忍足くんは笑う。

「慌ててたの?」
「そりゃあ…好きな子が他の男と休日におったら慌てるやろ」

そう言うた忍足くんは、少し拗ねとる様にも見えるけど、照れくさそうにも受け取れるような複雑な表情をしとった。
私はまた驚いたしまってぽかーんと間抜けな表情で忍足くんを見てしまう。
何度間抜けな表情を晒してしまっているのだろうかと気付き、慌てて普通の表情へと戻す。

またちょっとした沈黙の時間が互いに流れてしまい私は何か言おうと思ったけど何を話していいか分からなかった。
そないな中、先に口を開いたのは忍足くんやった。

「…なぁ、【名前】」
「どうかした?」

私が返事をした瞬間、スッと忍足くんが私へと歩み寄る。
ほんで頬へと顔を近付き……私の耳元にチュッっちゅうリップ音が響いた。

「――っ」

驚いて頬へ手を当てた時には既に忍足くんは悪戯っ子みたいな表情で私をみとった。
その表情が私のむっちゃ好きな彼の笑顔で何も言えなくなる。

「さっき出来へんかったから。じゃ、また明日!」

そう言って直ぐ様、走り去ってしもた後を私はいつまでもボーッと見とった。
彼の触れた頬はめっさ熱くてきっと今の私は顔が真っ赤やろう。

「あんなん反則やで」

そうポツリと呟いた言葉は誰にも聞かれる事なく消えていったのやった。


Fin.
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