第17章 ◆番外編4「贈り物」
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『あとで引き出しの中を見てください』
主は消えた長谷部がいた部屋に一人でやってきた。
最後に彼に言われた言葉のとおり、彼がいた部屋の机の引き出しをこっそりと開けてみる。
「……これ…」
そこには、桜の花びらが和紙に閉じ込められた、綺麗な“しおり”が入っていた。
彼女はそれを取り出して、日の光に透かしてみる。
まるで日向に散る桜のように、それは透き通る桃色をしていた。
「…綺麗…」
──部屋にしおりを持ち帰ると、近侍の長谷部がそれを見て「綺麗ですね」と言った。
彼女はぽかんと彼を見る。
(錬結されても、分離していたときの記憶は共有されてないんだ…)
「主? どうかしましたか?」
「…いえ…」
「そのしおりはどうしたのですか? 初めて見ましたが」
主は目を閉じ、しおりを大事に胸の中に閉じ込め、こう答えた。
「…大切な人からの“贈り物”です」
今度は長谷部がぽかんとし、そしてすぐに目を細めると、立ち上がって彼女を問い詰める。
「主! 大切な人とは誰のことです!?」
「ふふ、内緒です」
「なっ…白状して下さい主! 俺より大切な人がいるんですか!?」
「さあ、どうでしょう」
「あるじ! あるじぃ───!!!」
逃げ回る主と、追いかけ回す長谷部。
彼女の胸の中には、もう一人の長谷部からもらった不思議な思い出と、小さな“贈り物”。
◆番外編4 完◆