第7章 笑顔
正直、何があったのか、分からない。
小学生の時に母親が他界し、父親が酒に溺れた。暴力を振るわれ、食事はどんどん少なくなっていた。高校に上がり、バイトを強要され、バイト代は全てお酒やギャンブルに消えていた。気が付けば、お洒落に気を使う事もなく、学校とバイトに明け暮れていた。
そんなある日、学校から帰宅したら、家の中がもぬけの殻になっていた。家具、家電、身の回りの物など、全て。空き家状態だ。持っていた鞄が、するっ、と指から落ちていった。
「桐生奏か?」
黒いスーツを着た男性が、奏に声をかけた。タバコを吸いながら、サングラスを胸ポケットにしまい、値踏みするように奏の全身を隈なく見る。
私、売られたのか。
そんな事を漠然と思いながら、この後の事を思い浮かべた。ホステス、風俗、人身売買、臓器提供、セフレ、肉便器、性奴隷、奴隷、召使い、スパイ、下僕、僕。自分の身に起こることのはずなのに、どこか他人事で、逃げようとも思わなかった。どうしたいのかも、出てこない。逃げるべきなのだろうか? だが、当然、借金が大量にあるのだろう。
「お前を連れて行く」