第5章 不良
「僕ら、ちょいと、お姉さんに用があってね。桐生奏さん。おとなしく言うこと聞いてくれたら、痛いことはしないから」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁっ!!
リーダー格の男が、配下から、ペッドボトルに入った水らしきものを受け取り、口に含むと、ニヤついた顔で近づいてくる。動けない私の顎を優しく掴み、上を向かせ、握られた。
「いっ……!」
痛みで口を開いた瞬間、唇を塞がれた。固形物と水が、口の中へと流れ込み、喉は、それを受け入れてしまった。
「ごほっ! ごほ……かはっ!」
吐き出したい。無理だ。どうやって。
「さ、行こうか」
身動きが取れないまま、私は、ただ連れられる。声も出せず、ただ、成すがまま。このままじゃいけない、と思い、声をあげようとした瞬間――
「な……何……?」
目の前が霞んで、体の力が抜けた。そのまま、意識が消えていく。駄目なのに……だめ、なのに……
奏
信也が呼んでくれた気がして、意識が消えた。