第8章 授業
昔、家の隣に新築の一戸建てが出来、そこに一人の大学生が住んでいた。時々、挨拶を交わす程度だったのだが、あるとき、テストで赤点を取った事が知られ、家庭教師をしてあげようか? と言われ、しばらくお世話になったお兄さん。
その後、大学を卒業したら、お兄さんは姿を消した。
「ずっと、会いたかった。信也お兄さん……」
「……バレちゃったか」
「なんで、ほぼ一瞬だけ、あんな所に住んでたの?」
「庶民の暮らしを知るためだよ。ほんの一年でも、一般人として、一般人と触れ合って、一般人の暮らしを知りたかったんだよ。自然と警官、塀や金持ちに囲まれてるだけで、国の為に何が出来る? 本当の国民の姿を知らないで、上辺だけを見て、底を見ない、てのは性に合わなかった」
「……お兄さんらしいね……でも、いいの? 川島先生」
「あの女は、ただのマッサージだ。勘違いするような声を勝手に出すだけで、マッサージ以外何もしねぇよ。俺は年上より年下派。家庭教師の教え子以外、興味はねえよ」
「そっか……」
布団をかぶり、目を瞑る。大きな手が頭に乗せられ、優しく撫でられた。そのまま、再び、まどろみの中へと落ちていく。
~Fin~