第30章 吐息の味
それから彼女は宣言した通り、
父や母だけではなく村人にも事情を話し、
いずれは俺が1人で育てられるまで…
彼女と蔵で赤子の世話をする事の許しを貰った。
こんな事は時勢的にはあり得ない事だったが、
川に赤子を流す事に胸を痛めていた村人達にとっては
僕や彼女の行動は罪滅ぼしだと思ったからだろう。
「私の名前はコトよ。」
雫
「…コト……」
「字は分からないわ…母も父も読み書きが出来ないから……
でも私、響きが大好きで気に入ってるの!
今度はあなたの番!名前はなんて言うの?」
雫
「…………」
(…名前……)
俺はふと、蔵の小窓を見上げた。
雫
「………」
外は雨が降っているようで、
小窓から雫が溢れている。
雫
「…雫………」
コト
「雫ね!!なんか変わった名前ね!!
よく言われない??」
雫
「…どうかな……」
そして彼女は腹を空かせた赤子の口元に、
何かを浸した布を近づけ口元に含ませた。