第2章 義理の父親が姿を消しまして
~誰かサイド~
「……一般人発見。負傷しているもよう。救出にあたる」
とある任務で、紛争地域へと潜入していた捜査官。彼がそう無線で連絡してきて数時間後。再び彼から連絡が届いた時、私は大変驚いた。
「俺が潜入している間だけでいい。彼女を保護しようと思う」
私は最初は反対した。ただでさえ、危険な任務なのだ。わざわざ危険を自分で踏む必要はないと。子供は行くべき所へ預けるべきだと。しかし、彼はそれを良しとしなかった。結局、私が根負けし、許可を出してしまったわけだが。
子供の名前は、ツムギと名付けたらしい。こっそり様子を見に行くと、赤井くんがいなくとも強かに生きている様子が遠くからでも分かった。2人は人里離れた小屋に住んでおり、赤井くんがいるときには2人並んで食卓についていた。……FBIでは、不摂生な生活しか送っていなかった彼が驚きである。わずかな時しか過ごさなかった2人だが、確かな信頼関係があったように感じられた。
そして、2年の歳月が経ち、小さな紛争が終わりを迎えた。新たにとある組織の情報を手に入れることができたため、この地とはお別れとなる。私がそういうと、彼は言った。
「俺は今日日本へ旅立つ。すまないが、あいつのことを頼んでいいか?」
…彼の次の任務は、その組織の潜入だ。彼もあの小さな少女にお別れを言いたいはずだが、これも仕方がないことか。私は頷いた。
「…以前君が言っていた気のいいシスターのいる養護施設でいいのかい?」
「…ああ。助かる」
彼は私に背を向け、部屋から出ようとする。私はその背中に声をかけた。出発前に彼女に会いに行くのかい、と。
「………いや、少々やり残したことがあってね」
結局、彼は彼女には会うことも、何も残すことなく、その地から去ったのだった。