第4章 黒の組織にて
~別サイド~
正直言って、驚いたというのが本音だ。今回、この任務がこのガキに来た時、俺は確実に死ぬと思った。アニキが拾ってきた時、この人にも人情があるのか…としみじみと思ったものだが…。
だが、俺はそれを撤回しなければならないようだ。
この人は、本当に使えるガキだと思って拾ってきたのだ。アニキは暇を見つけては、ガキを戦場に放り込んだ。あるときは、銃撃戦。またあるときは、麻薬売買。あらゆる経験をこのガキにさせた。その度に、俺は今回こそ死ぬな…と思うのだ。だが、実際には生き残る。しかも致命的な傷ひとつない。
「疲れたぁ」
今回も、ガキはそう溜息をつき、そしていつものように愚痴ひとつ零さずに、目を閉じ、アニキの膝に頭を乗せるのだ。俺はその異常な光景に毎度ながらゾッとする。
「………ますまずだな」
アニキはアニキでいつものように、その安らかな寝顔を見て、満足そうに呟いた。俺は聞いた。
「アニキ。そのガキ、どうされるんです?」
「使えるガキだと言っただろ。こいつは才能の塊だ」
ニヤリと笑うアニキ。俺は首を傾げた。確かにこのガキの異常さは薄々気づいていたが、だがそれを抜かさなくとも才能の塊どころかこいつはただのガキだ。すると、アニキは察しの悪い俺にも分かりやすく言葉を変えた。
「言葉の訛りから、これがあの紛争地域で育ったことは間違いない。あの年まで生きていたということは、少なからずともその親の加護があったからだろう。だが、現にこれは捨てられたと言い張る。つまりだ」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。このアニキの洞察力は毎度ながら素晴らしい。この人はこれと非情さで幹部まで上りつめたようなものだ。
「これは外の奴に拾われたんだよ。しかも、中々の手練にだ。幼い頃から、生きる術を叩き込まれ、それを吸収していった。だから、こいつは教えてもいねぇことを平気でやりやがる。銃弾の避け方、気配の読み方、ナイフの使い方…。それがなかったら、とっくの昔に死んでいたな。…だが、流石に人の殺し方までは習ってなかったようだがな」
アニキはククッと笑う。その声に俺はますます背中に嫌な汗が流れた。
「ウォッカ、俺はいい拾い物をした。やはり俺の目に狂いはなかった。戦争補助はこれだからやめられねぇ」
目をギラギラさせるアニキの膝で眠るガキ。俺は同情しながら、車はアジトへとたどり着いた。