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赤井さんちの一人娘

第8章 ライとバーボン


~別side~

目を開けた時、成人男性の体重を感じ、僕はそいつを押しのけた。散々好き勝手やってくれた。僕はこいつを殺そうかと思ったが、身につけていた武器も無く、体から不意に清潔感のある匂いがし、ぶちまけた床の嘔吐物もなくなっている。……こいつ、後始末をする甲斐性はあるのか…

「武器はないぞ」

首でも絞めてやろうかと思ってたが、こいつは目を開け僕を見ていた。僕は舌打ちしながら答えた。

「見ればわかります。それで? 僕に殺される覚悟はできましたか?」

すると、ライは3枚の写真を取り出した。僕はそれを見て、驚愕した。最初の1枚目、2枚目は僕の探り屋としての仕事に関わること…。ギッと僕は彼を睨んだ。

「これらを他の奴らにバラされたら、お前の幹部の道はねぇな」

そして、3枚目。それは先程のライとの行為の写真。

「これはおまけだ」

「…何が目的です?」

こいつとは、幹部を争っている。つまり、僕をその争いから蹴り落とそうとしているのか…しかし、彼の言葉は意外なものだった。

「俺とあのガキの関係だ。必死で積み上げた探り屋の仕事、死んでも明け渡したくねぇなら、黙ってろ。他の奴にも口止めしておけ」

そして、彼はその写真を脇に起き、ベッドに再び横になった。勝手に出ていけということなのだろう。

「……なぜ今更口止めを?」

「…ジンがそう易々と殺すわけねぇだろ。あいつが追い込んだという結果にジンは満足してるからな」

ライの抑揚のない言葉に、僕は安堵する自分を抑えきれなかった。それでもなんとか、平常心な声を努めて出した。

「…そうですか」

そして、その部屋を後にした。鈍く痛む腰を感じながら、僕は溜めていたため息を吐き出した。そして、僕はその場に座り込んだ。行為が頭を過ぎる。乱れる息、首にかかる熱い息、触れるゴツゴツとした手…

「…………嘘だろ…」

殺意しかないはずだ。女のようにされるのは自分のプライドが許さない。ただ、欲のはけ口にされたのだったら、否応でもそうした。だが、あいつは……ライは……

「……紬…」

薄れていく意識の中で、あいつが誰かの名を呼びながら謝っている声が聞こえた気がした。それが……何故か僕の心に響いて……涙が出てきそうになった。後始末をするライのその時の優しい手つきを、俺は中々忘れることが出来なかった。
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