第19章 伝え合う熱と、心
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電気の消えた暗い部屋の中、わぁわぁと歓声の響く画面をじっと見つめる。
その画面に映るのは、私が過去に拒絶した感情”人魚姫“を従えて必死に相手に食らいつこうとするあの子。その姿を見て、驚いた。拒絶して、ぼろぼろにした感情を抱えたまま、あれだけ個性を使えるようになっていたことに。それだけの想いを抱えて進んできたのだということに。
でも、まだ扱いきれていない。まだ感情を受け入れきっていない。原因は、きっと私があの子に刃を向けてしまったせい。けれどあの子がヒーローを目指すなら、あの子はあの“人魚姫“を……核となった感情を否定していてはならない。抑圧では、いつかあの”人魚姫“は暴走し、取り返しのつかないことになる。私達の個性”ドッペル“は、そういう恐れのある力なのだから。
「これが、最後に親としてしてあげられることになるかしら。」
ふと、個性のことを明かした日を思い出す。破竹の勢いで実力をつけて、No.1に追いつこうとして、そして大きすぎる壁に阻まれた努力(エンデヴァー)を背負う同級生と話した日のことを。
あの日のことがあったからとはいえ、あの子のことをすんなりと受け入れてくれたことには感謝している。それだけでもありがたかったのに、ちゃんと個性も鍛えてくれていた。わからないことばかりで苦労したでしょうに。
でも、もう他人に頼りきりではいけない。あの子と同じように、私も向かい合わなくてはならない。私が、捨ててきてしまったものに。
部屋の隅に転がっていた携帯を手に取って、電話をかける。
『はい。雄英高校1年―……』
「こんにちは、私至情と申します。至情奏の担当の先生とお話しさせて頂きたいことがあるのですが……。」
あの子は、きっとまた泣くのでしょう。私が、泣かすのでしょう。けれど、乗り越えていきなさい。貴女がヒーローを目指すのであれば。ありたい場所に居たいのならば。そのために、私は苦難として立ち塞がろう。
あの子の“人魚姫”が舞台に落ちたのを最後に、私はテレビの電源を落とした。