第19章 伝え合う熱と、心
焦凍との話が終わり、ひと呼吸おいて私も通話を切る。暖かい陽の光が差し込むホテルの3階廊下から見下ろす保須市の街は、昨日の騒ぎが嘘のように日常を取り戻しているように見えた。
皆、無事だった。けれど、これは私達が強かったからじゃない。ただただ運が良かった。運が悪ければ……最悪の場合、飯田君は死んでいたかもしれない。
人の行き交う街を見下ろしながらそっと壁に寄りかかり、昨日の興奮が抜けきっていなくてそわそわする手をぎゅっと握りしめる。
「……まだまだ弱いなぁ。」
「まだ学生で、ヒーローにすらなっていない卵が何を」と言われるだろう。けれど、助けたいのに助けられない無力感は、きっとプロもアマチュアも関係ない。
頑張って、強くなろう。救けたいものをこの手から零したりなんかしないように。
スマホをポケットにしまい、エンデヴァーさん達の集まる事務所代わりに使っていた休憩室へと急いで向かう。いくらエンデヴァーさんに許可を貰ったからとはいえ、まだヒーロースーツは脱いでいないのだから。
こつこつと踵の音を響かせながら歩いていくと、ガラス張りの休憩室にパトロールに出ていたサイドキックの人達が既に集まっているのが見えた。邪魔にならないよう、そっと音がしないように扉を開けて中に入ると、サイドキック達の前で腕を組んでいたエンデヴァーさんと目が合う。
遅れたことを咎めることはなく、組んでいた腕を解いたエンデヴァーさんが口を開く。
「全員、昨日に引き続いてのパトロール、ご苦労だった。街はステインの話題で騒がしくはなっているものの、特に異常は見受けられない。保須での仕事は終わりだ。これ以降は、この街のヒーローに任せて引き上げる。市に連絡し、引き上げる準備を始めろ。」
はい!と一様に返事をするサイドキック達を見て一つ頷いたエンデヴァーさんが私に目を向ける。
「奏、お前はここで上がって焦凍の様子を見てこい。ついでに、クラスメイトの見舞いに行くといい。」
「いいんですか?手伝わなくて……」
「構わん。行け。」