第4章 波乱の個性把握テスト
桜が綺麗に桃色に染まって徐々に暖かくなってくる頃、ようやく私と焦凍の雄英高校でのスクールライフが始まる。入試結果からの三週間は、予想した通りみっちりとエンデヴァーさんからしごかれた。随分スピードも上がったと思ったのに、簡単に捕まっては床に叩き落される毎日だった……。昨日もしっかり叩きつけられて、地味に背中が痛い。
二人一緒に冬美さんの声に見送られながら家を出て、電車に揺られて学校に向かうのは中学の頃から変わらない私達の習慣。眠気を誘う揺れの中、丁度二人分空いていた席に座ってぼんやりと窓の外を眺めていた。
「クラス、一緒でよかったね。」
「ああ。」
ヒーロースーツの被服控除や個性に関する書類等々、色んな書類を雄英に提出して発行してもらった学生証はつやつやとしていて真新しい。お互いの学生証に書かれていたクラスは1-A。どんな人達がクラスメイトになるんだろう。試験の時はあまり周りを気にする余裕がなかったし、人がいない所で暴れたから目ぼしい人は思い当たらない。私と同じようにぼんやりと外を眺めている焦凍は、誰か知ってるかな。
「ねぇ焦凍、推薦入試で凄そうな人いた?」
「……わりぃ。あんま周り見てなかったからわかんねぇ。」
「そう。」
一瞬上を向いた目はすぐに閉じられ、温度のこもっていない声が答えを返す。これは、試験の時に誰も見ていなかったんだろうな。昔はそうでもなかったけど、今の焦凍は人に積極的に接しようとはしない。むしろ、壁を自ら作っているようにも感じる。それは、『エンデヴァーを否定する』ただそれだけしか見ていないから。
雄英で一番になったら否定できるの?それとも、ヒーローのランキングでトップを取ったらなの?先の見えないゴールに、エンデヴァーさんの呪縛に捕らわれた焦凍を解放してあげたい。封じ込んだ左の個性は、正真正銘焦凍の力なんだと伝えたい。けど、それを他ならぬ焦凍が許してくれない。
窓に向いていた視線は自然と自分の膝の上へと落ちて、ぎゅっと手のひらを握った。
「どうした。なんかあったか。」
「クラス、どんな感じかなって考えてただけだよ。」
「別に、どんなだっていいだろ。」
「つれないなぁ焦凍。」
「周りなんてどうでもいい。俺は、左の力を使わずに一番になる。そして、親父を否定する。ただそれだけだ。」
「……そう。」