第16章 いざ、職場体験へ!
仮とはいえ皆が自分にコードネームを付け、着実にヒーローへの一歩を踏み出したあの日から一週間後。待ちに待った職場体験の日がやってきた。相澤先生の引率で新幹線乗り場のある大きな駅に皆でやってきて、それぞれが目的地までの切符を窓口で購入していく。
私と焦凍が行くのはエンデヴァーヒーロー事務所だから、他の人……例えば九州まで行く常闇君とは違って荷物は最低限しか持っていない。帰る先も家だしね。
全員が切符を買ったを確認すると、ホームで相澤先生が集合をかけた。
「全員、コスチュームはちゃんと持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ。」
ヒーローコスチュームが入ったケースを両手でしっかりと持ちながら、皆それぞれ返事を返す。間延びした返事をした芦戸さんに先生が軽く注意を飛ばしたけれど、話はそれ以上なく、解散となった。
皆が期待で胸を膨らませながらホームに散っていくのを見て、私達も行こうと口を開きかけて、止める。眉間にしわを寄せた険しい表情で、焦凍が飯田君をじっと見つめていたからだ。
「飯田君、心配だね。無茶しないといいんだけど。」
「……無茶だけで済めばいいけどな。」
「え……?」
焦凍の意味深な言葉を聞いて、私も飯田君をじっと観察する。……いつも通りの真面目な顔で平静を装ってはいるけれど、きびきびとした動きもなければ、委員長らしく他の人をたしなめたりもしていない。ヒーローだった兄への想いか、それともヒーロー殺しへの憎しみか。何が飯田君を苛んでいるのかはわからないけれど、あまりいい感情を抱いてはいないように見える。
私と焦凍がじっと見つめていると、緑谷君と麗日さんが心配そうに飯田君に話しかけに行く。仲のいい二人が話しかけても、飯田君の纏う雰囲気は変わらない。ひとことふたこと話した後、直ぐにホームの奥へと消えていく飯田君を見送る二人の顔は、飯田君を元気づけられなかった落胆と不安で寂しそうに曇り果てていた。……わかるよ。大好きな人の力になれなくて、哀しいんだよね。復讐に囚われていた焦凍に対し、何もできなかった自分を思い出した。