第15章 束の間の平穏
「……緑谷君がそういうなら、謝るのは止めにする。けど、緑谷君が全力で戦ってくれたおかげで焦凍がいい方向に向かっていったのは本当だから、ありがとうだけは受け取って欲しいかな。」
「同じお礼を轟君にも言われたなぁ。」
困ったように指で頬をかきながら、緑谷君はわかったよと頷いた。
嫌われる覚悟で打ち明けたはずだったのに、なんだか随分あっさりと終わってしまったことに、若干戸惑いがある。でも、緑谷君に嫌われなくてよかった。
そう思ったことに、ほんの少しだけあれ?と思う。今までの私は、焦凍さえ隣にいてくれれば他に何も要らなかった。なのに、どうして私は緑谷君に嫌われることを恐れたんだろう。焦凍が変わり始めたことで、私も何かが変わってきているのかな?むむむ、と首を傾げてみたけれど、よくわからなかった。
話も終わったし、と緑谷君に促されるまま二人で空き教室を後にする。教室に戻ると、もう何人かは帰路についたようでがらんとしていたけれど、私を待っていた焦凍と、緑谷君を待っていた麗日さんと飯田君が残っていた。
荷物を纏めた緑谷君にじゃあねと手を振られ、それに振り返してから私と焦凍も教室を出た。
「緑谷と、何話してたんだ?」
「体育祭で緑谷君にお世話になったから、そのお礼を伝えてただけだよ。」
「そうか。」
あいつ、いい奴だよな。と言った焦凍にそうだね、と返す。緑谷君に関しての話はそれだけで、後は授業での話とか、テレビの話とか、そんなとりとめのないことをゆったりと話す。ふ、と薄っすらと笑うようになった焦凍に手を繋がれながら、穏やかに家までの道を歩いた。