• テキストサイズ

人魚姫は慟哭に溺れる【ヒロアカ※轟夢】

第13章 対決、爆豪


 ゆらゆらと、深い水の中に沈んでいく。そっと目を開いてみると、やっぱり目に入ってくるのは空席ばかりの音楽ホール。でも、いつもと違うのは……音楽ホールの中がまるで水槽のように水で満たされていること。どうして……。そう思わず零した言葉は音にならずに泡になって消えていった。
 ホールの中心にある舞台も、いつもはスポットライトがこれでもかというほど当たっているのに今日はそれがない。けれど、舞台には誰かが……いや、何かが立っている。それは見慣れた巨大な姿。私の心を写す人魚姫。
スポットライトの当たらない薄暗い舞台の中心で人魚姫はサーベルを指揮棒のように振るう。ここには音楽を奏でるオーケストラなんていないし、声すら音にならない無音の空間。それでも身体を揺らして楽しげに振るうその姿は、まるで一人遊びに興じる子供のよう。

 カーテンから差し込む陽の光だけが光源の、だぁれもいない部屋の中。私と貴女の二人きりでお人形遊びを楽しんだ。だけど、本当は一人きり。だって、遊び相手は異形の人魚。
それが、私にとっての日常で。貴女にとっての日常。私を知るのは、私だけ。
――それは、とても“   ”だった。

 ズキンと、心に鈍い痛みが走る。元々薄暗かったこの空間の闇が更に深まった気もする。何かに誘われるように人魚姫の方を見る。人魚姫の顔はアーメットヘルムで覆われている。なのに、どうしてだろう。目が合ったと、確信した。
 ぴきり。鎧にヒビが入る。錆びて朽ちていくように、鎧がぱらぱらと崩れていく。少しずつ広がる鎧から覗くのは、どろりとした真っ黒の液体。それがどろどろと鎧を伝って落ちていく。べちゃりと音を立てて水たまりを作っていくその液体がなんなのか、私は知っていた。あれは、私の感情だ。
 認めたくないからずっとその感情を見ないフリをしてきた。聞こえないフリをしてきた。声をあげようものなら刈り取ってきた。圧し潰してきた。押し殺してきた。――その結果が、あのどろどろになった黒い液体だ。
潰され果てて、何て名前の感情だったのかすら忘れてしまった。そして、それを理解する気もない。あの感情は私にとって醜い物であり、そして不要な物。――例え、その感情こそが人魚姫が写している物だったとしても。

だから、こんな夢を見せた所で無駄だよ。人魚姫。

 泡になって消えた言葉は人魚姫に届いたのか。私には、わからなかった。
/ 272ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp