第12章 轟焦凍 オリジン
目を閉じて、ゆっくりと息を吸って、吐く。それを、ただ淡々と繰り返す。
この身体を確かに満たしていたはずの“楽しい”という気分は掻き消えて、“勝たないと”という強迫観念にも似た何かが冷たく身体を支配する。……こんな気持ちを、焦凍はずっと背負ってきてたんだね。
エンデヴァーさんに課された“私の価値を示す”という重荷も、本当なら背負わなくてもいいものなのかもしれない。元々、個性婚ありきの関係を焦凍は望んでいない。私が“価値”を失って轟家から追い出されたとしても、きっと焦凍は普段通り接してくれると思う。
――本当に?感情という不確かなもので形作られた関係が崩れないと、本気で思える?
“無償の愛”なんて、存在しないのに?
どくり、と心臓が嫌な音を立てる。大きく左右に頭を振って、胸に滲むように湧いて出てきた嫌な考えを振り払う。
書類で明確に形作られた関係性。目に見える利害関係。
でも、人と人を繋ぐのはそれだけじゃない。感情で結ばれて、確かな繋がりにだってできる。そう、できるんだ。
大きく息を吸って、そして吐いて、私は“私”を取り戻す。ああ、遠くからわぁわぁと歓声が聞こえてくる。
『これで二回戦目進出者が揃った!つーわけで、そろそろ始めようか二回戦目!!』
歓声よりもクリアに耳に入ってくるプレゼントマイクのアナウンス。一回戦目が終わったってことは、次は緑谷君と焦凍の試合。これは、ちゃんと見届けないといけない。
ゆっくりと立ち上がって、観客席の方へと歩いていく。かつん、かつんと階段を上って目にしたものは……フィールドで向かい合う緑谷君と焦凍の姿だった。