第1章 新生活
毎年、少しずつ気温が高くなっている。
今年の春も去年より早く桜が散った。
今日から4月だというのに、駅前の桜の木にはほとんど花はついていない。
お花見しとけばよかったと思いながら改札を通る。
花見をするような友人などいないのだが。
今日から新社会人となる私は、数週間ほど前に地元を離れ、東京に引っ越してきた。
知り合いなど1人もおらず、友人などもってのほか。
これから職場でいい人間関係を築けるか…。
そう考えると、気が重い。
〜♬
『間もなく2番線ホームに列車がまいります。』
軽やかな音楽とともに電車が目の前へと到着した。
初めての通勤ラッシュに戸惑いつつ、車両へと乗り込む。
運良く座席が一人分空いていたので座ることにした。
心地よいリズムに揺られながら、いくつかの駅を通過していく。
家賃を軽減するために会社から遠目のマンションを借りている。
会社まで普通に行くと30分もかかるので、快速列車はありがたい。
ガクッと頭が大きく傾いて目が覚めた。
電車の揺れがあまりに心地よく、眠ってしまっていた。
幸いにも数分しか経っておらず、寝過ごす程ではなかった。
先程の駅で多くの人が降りたようで、車内は少し人が減っていた。
そのせいで車両の端にいたあの人を見つけてしまったのだ。
「葵…」
つい声に出してしまいハッとなる。
しかし、皆スマートフォンに夢中になっていて気づいてない。