• テキストサイズ

蟲姫

第3章 蟲姫


そうして蟲達と戯れていると、帰ってきた両親はそんな私を見て怯えた表情と震えた声で"化け物…!"そう、はっきりと口にした。
「それから1年はどうにか気まずい中一緒に暮らしていましたが、無意識に力を使ってしまうようで。力を使うと目が緑色に淡く光るのが不気味だって追い出されましてね。丁度当時は作物も不作だったので山の主に私を"蟲姫"として捧げ、この小屋に住まわせたんですよ」
それからというもの、作物は豊作の年が増えて大きな災害も特に起こらずで私は"災厄の象徴"として村人達から避けられるようになった。
「…以上が、私が蟲姫と呼ばれるようになった経緯です。気は済みましたか?」
「あ、ああ…」
ふと外を見ると、は何かに気付いた。
「――私は食事の支度をするのでギンコさんはどうぞ部屋でお休みになっていてください」
それだけ言ってすぐさま外へ出ていく。その足は迷いなく小屋の周りに繁る木々の中へと向いていた。
「隠れていないで出てきたらどう?」
茂みに向かって声を張れば、姿を現したのは村の少年だった。その表情にはいくつかの負の感情が表れている。悲しみ、怒り、憎しみ…といったところだろうか。
「俺の父ちゃんが蟲に目を喰われた」
「そう。それは災難だったわね」
「お前がいるせいだ…!お前が…蟲姫なんかがいるから…っ!」
――――ヒュッ
短い風を切る音と共に首元に違和感が生じた。首元からぬるりとした生暖かい感触が広がっていく感覚に、案外冷静に出血でもしているのかと呑気に思っていた。
「っ…生憎、だけど…ここからじゃ、私の命令は…効かない、わ…。でも、こうすることで…あなたの、気が済む、のなら…っ…いくらでも、どうぞ」
息も絶え絶えにどうにかそれだけ伝えるが、しかしもう間もなく大雨が来る。この少年には大雨の中茂みを抜けて村に帰るのは難しいだろう。
「ただ…、日をあら、ためて。時期に、大雨が…くる、わ…」
そして出血で霞み始めた視界の中、は気力だけで小屋の前まで来て膝をついた。
(食事…作らな、きゃ…)
そして意識は暗闇へと落ちていった。
/ 18ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp