第5章 ボクはキミを
「え……?」
「いつ空いてる?時間を作るよ。あんたの好きなところに連れて行く」
「……あ……」
「退屈な思いはさせない。ただの蕎麦屋が最高の一日を約束する。オレと過ごしてみないか、紡。いいだろ?」
「…あの…お気持ちは大変うれしいのですが…よく知らない人と、そういうのはちょっと……」
「……。ですよね……」
―――「……だっさ……」
落ち込む楽の背後から、声が聞こえた。
振り返ってみれば、そこには顕著に顔を歪めた天が立っている。
「……!?おまっ……!」
「九条さん!?」
「……振られた上に、別人のフリしてナンパして、さらに振られた。……ださ……」
「……っ、なんのことだか……人違いじゃないですか?」
「ねえ、キミ。抱かれたい男ナンバーワンなんでしょ?」
天の言葉に、紡が彼は蕎麦屋さんだと否定したとき、一織と環がリビングに現れた。
「てんてーん」
「にゃあ子ー」
コントの練習か?と楽。
楽と天の姿に、一織が驚き目を見開いている。
「TRIGGER!?何をしているんですか、あなたたち!?」
「うわあああいおりん、大事件だ!王様プリンがなくなってる!」
「……なんだ」
「なんだじゃねーよ!なんのためにオレはにゃあ子にゃあ子言いながらうろうろしてたんだよ!」
「てんてんのためでしょう?」
「キミたち、大事な話をしてるから、静かにしてくれない?後、てんてんって呼ぶの止めて」
天が不機嫌そうに言えば、一織が口元を歪めた。
「…は?何言ってるんですか?あなたいくつなんですか?私より年上でしょう?てんてんなんてかわいい愛称が、自分に向けられたものだなんて、勘違いも甚だしい」
「てんてーん!プリンなくなった!」
「てんてん!?この人が!?」
驚く一織。そして、静かに笑う天。
「キミ、ごめんなさいは?」
「くっ……!」
「それより、零はまだ帰ってきてないの?」
「零さんのお姿見えないですよね。電話してみましょうか?」
「いや、大丈夫、ボクが電話してみる」
天が眉根を寄せながら携帯を耳に充てたのと同時に、大和の着信音が鳴った。