第5章 ボクはキミを
――リビング。
「出前、来たみたいだ!」
「あはは!蕎麦のめぇーんかいー、トイレんかい、いっちくーい!」
「トイレか?はやく戻ってこいよ!」
ドアを開ければ、そこには八乙女楽が蕎麦を片手に立っていた。
「どうも、ご苦労さまでーす」
「毎度どうも」
「あ!噂の八乙女のそっくりさん!ひえー。本当に似てるなー!」
「よく言われます。はい。天ぷら三人前。熱いよ」
「お、サンキュ」
楽から蕎麦を受け取れば、その後ろから紡の声がした。
「こんばんは。夕飯の残りを持ってきました」
「……」
「あぶね!いきなり手離すなよ蕎麦屋さん!」
「悪い。―――よう。久しぶりだな」
楽が紡に言えば、紡は笑顔で答える。
「あ、お蕎麦屋さん!お蕎麦とってたんですね。じゃあいらなかったかな」
「あんたの手料理?何つくったんだ?」
「筑前煮です。今日は零さんも帰ってくると聞いていたので、お野菜中心に」
「うまそうだ。いらなかったらオレが食うよ。蕎麦、テーブルまで運ぼうか」
「ありがとうございます」
そして、蕎麦屋も一緒にリビングへと上がる。
「おい…こんなイケメンオーラ溢れるそば屋が存在してんの許せないんだけど…」
「ふふ、改めて見ても、楽さんに似てますよね。楽さん、怖そうですけど、お蕎麦屋さんみたいに優しいんですよ」
「八乙女楽、好き?」
「はい、とても」
「あんたみたいな子なら、八乙女も落とせるんじゃないか?」
「とんでもない、私なんか!それに、万が一、夢のようなことがあったとしても、楽さんは人気アイドルです。他の事務所のタレントさんと特別な関係には、絶対なりません」
紡の言葉に、楽は残念そうにそうか、とだけ溢してから、改めて続けた。
「……なら、ただの蕎麦屋は?」