第5章 ボクはキミを
―――陸の部屋。
「……約束を……守れない?」
「アイドルとして最低なことは、ファンを失望させることだ。ボクのファンでいたせいで、傷つくことがあったなんて絶対に許せない。ボクのファンでいたことを後悔させたくない。いつか、ボクから他へ興味が移って、ボクのファンを止めることがあったとしても。ボクを応援していた時間は、楽しいものだったと笑っていてほしい」
「………」
「陸は一生懸命ないい子だよ。だからこそ、走れなかった弟のことは忘れて、キミのことをライバルだと認めた。だけど、この前のライブとリハで確信した。陸にこの仕事は向いてない。陸も陸のファンも不幸になるはずだ。ボクたちの仕事は代わりがいない。代わりがいるなら、二流の証拠だ。キミが一流を目指せば目指すほど、キミは周りに迷惑をかける。ボクたちは何人もの人に支えられてステージに立つ。キミが歌ってる四分半のために。四か月働いて、四年間勉強してきた人たちがいるんだ。そんな人たちの苦労を、ボクらのミスは一瞬で台無しにする。その覚悟があるの?」
「……オレは……オレはみんなと歌いたくて……」
「仲間と歌いたいだけならカラオケにでも行ってきなよ。そこでならボクも拍手してあげる。タンバリンを振って、キミの楽しみを盛り上げてあげる」
「………」
「ボクが家を出た理由を知りたいって言ってたでしょう?教えてあげるよ。父さんの店がお客さんを楽しませる責任を忘れたからだ。ボクも最初は九条さんに反発した。だけど、彼にプロの世界を見せてもらって、目が覚めたんだ。隕石が落ちてきて、世界中が絶望している時にも、笑って歌っているのがボクらの仕事。それを九条さんが教えてくれた」
「………」
「もう一度言うよ。陸はこの仕事を全うできない。アイドルは、辞めた方がいい」