第2章 shaking your heart
「つ、ついに来たか…!!」
何故か扉に向かって構える三月。
全員がアイコンタクトを取り交わし、紡が「ど、どうぞ!」と声を掛けた。
ゆっくりと事務所の扉が開かれる。
入ってきたのは社長と、スーツケースを引く万理。その後ろで、栗色の艶やかな髪がふわり、と揺れた。
「皆、昨日言っていた通り、今日からしばらくこの寮の一室に住むことになった子を紹介するね。皆もご存じの通り、うちの看板アイドル折原零ちゃんです!」
社長の紹介とともに、万理の後ろから彼女は顔を出した。
『……今日からお世話になります、折原零です。どうぞよろしくお願いします』
透き通るような真っ白な肌に、艶やかな栗色の髪。長い睫毛にびっしりと囲まれた大きな瞳、すっと通った鼻筋と熟れた果実のような唇。白いワンピースからすらりと伸びる四肢は、陶器のように白く滑らかだ。
まるで精緻な人形のようなその容姿に、一同はごくり、と息を飲む。見惚れるように、否、食い入るように、その場にいた八人は零に釘付けになっていた。
「……おや?見惚れちゃったかな。おーい、皆。返事は?」
社長の言葉に、はっと我に返った紡が慌てて頭を下げた。それに続いてメンバーたちも続々と慌てて頭を下げる。ただ、一人の男を除いて。
「OH……ビューティフル……まるでドール……こんな美しい女性は生まれて初めて見ました……」
「あ、ちょ!ナギ!!このバカ!!」
恍惚とした表情で近寄って行くナギを、三月が慌てて抑止する。
そんな光景を、零は、大きな瞳を瞬かせながら、不思議そうに眺めていた。
ただそこに立っているだけだというのに、滲み出るオーラが相まって、彼女の立っている空間だけがまるで別世界のようだった。