第5章 ボクはキミを
小鳥遊事務所の寮では、先の収録で千に父親のことを促され不機嫌な大和が丁度出掛けて行ってしまったところだった。
何も知らない三月と環は、怪訝な顔で大和が大きな音を立てて閉めていったドアを見つめていた。
「……なんだ、あのおっさん。めちゃめちゃ不機嫌オーラ出しやがって」
「なー」
「せっかく忙しい中メンバー揃ってるし今日は零ちゃんも帰ってきてくれるって言ってたのに。環、オレ、部屋でテレビ見てるから。腹減ったら鍋の中身食っていいけど、みんなの分残しておけよ」
「うす」
「ゲームやりすぎんなよ」
「うす」
部屋に戻って行く三月を見送ってから、環がゲームを始めようとしていれば、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「ん?ヤマさんか?零りんかな?」
大和か零のどちらかが帰ってきたのだと思った環は、徐にドアを開けた。
「おかえ………」
「………」
ドアの前に立っていたのは、大和でも零でもなく――TRIGGERの九条天だった。
「なんだ、てんてんじゃん」
「ひどい名前つけないで。はい、これ。お土産。王様プリン」
「やった!!一人で全部食っていいの!?」
「好きにすれば。……零は?」
「零りんはまだ帰ってきてない!」
「……そう。じゃあ、陸の部屋はどこ?」
「右から二番目」
「そう」
天はそのまま寮にあがると、すたすたと陸の部屋へと入って行ってしまった。
けれど、天の行先になど目もくれず。環は王様プリンの入ってる箱をきらきらとした瞳で見つめている。
「やった……1,2,3……10個もある!一時間ごとに食っても10時間分ある!」
環が一人感動していれば、再びドアが開いた。一織が帰ってきたのだ。