第2章 shaking your heart
「別に、誰にも言いませんよ。それとも、私にも知られたくないことですか?」
「いや……知られたくないわけじゃないんだ。ただ、天にぃがそうだったように、零ねぇも………」
「……零ねぇ?」
しまった、と陸が思ったときにはもう遅い。
一織は盛大に顔を顰めて、陸を睨んでいる。
「もしかして、また生き別れの兄弟とかですか!?どうなってるんですかあなたたちの家庭は!?」
「ち、違うよ、一織落ち着いて!!その、零ねぇとは……家が隣同士の、幼馴染だったんだ」
「幼馴染?」
「うん……でも、天にぃがいなくなる少し前に引越しちゃって……それ以来連絡も取れてない。天にぃが俺の存在を隠してたように、零ねぇも俺なんかと幼馴染だってこと、世間に知られたくなかったら、って思うと、知らないふりしたほうがいいのかなって……事務所に入ってから、ずっと考えてた」
「……なるほど。でも、彼女が九条天と同じとは限りません。これから会うんですから、会って確かめればいい。それだけです」
「そう、だよな……うん、ありがとう一織」
悲しげに話す陸に、ずきん、と一織の胸が痛む。これ以上、彼に哀しい思いはしてほしくない。それが一織の本音だった。
そんな陸の事情など知らずに騒ぐほかのメンバーに、一織が声を掛ける。
「ちょっと、貴方たち。少し浮かれすぎではありませんか?静かにしてください」
浮足立つメンバーに促せば、次々と怒るブーイング。
「一織!今回ばかりは兄ちゃんを許してくれ!!あの零ちゃんに会えるんだぞ!?もうオレ、今日死んでもいい…!!」
「兄さん、死んでもらっては困ります」
「まぁまぁ。今日くらいは許してやろうぜー、イチ。男たるもの、あの零を間近で拝めるなんて誰もが夢見るってもんよ」
大和のフォローに、一織は仕方なさそうに肩を落とす。
はしゃぐ三月の横では、壮五が色紙を持って手を震わせていた。
「サイン……もらえるかな……どうしよう、なんて言ったら僕の思いが伝わるか……いや、どう言ったら失礼にならないか……」
「そーちゃん、緊張しすぎじゃねー?手、震えてるしー」