第2章 shaking your heart
―――今日の小鳥遊事務所は、朝から一層騒がしかった。
理由は一つ。
この小鳥遊事務所を一躍有名にした張本人でもある、超人気アイドル「折原 零」が、とある事情でこの事務所の寮に越してくるというのだ。
IDOLiSH7のメンバー達は、朝から大騒ぎである。
「まさかあの零に会えるなんてマジで感激…!!サイン、もらえるかな!?」
「小鳥遊事務所に入ったからには、いつかはなんて夢に見ていたけど…こんなに早く実現できるなんて……」
前々から熱烈なファンだったらしく特にはしゃいでいる三月と壮五の二人を筆頭に、IDORiSH7の面々は朝から浮足立っていた。いくらアイドルといえど、その前に男の子だ。はしゃいで浮かれてしまうのも無理はない。
折原 零といえば、彼女にしたい芸能人ランキング、なりたい顔ランキング共に2年連続1位を獲得した老若男女問わず誰もが憧れる超人気アイドルである。
昨年度に続き、今年もCM女王の座を勝ち取り、今や彼女をテレビで見ない日はない。
まだ新米アイドルのIDOLiSH7からしてみれば、TRIGGERやRe:vale同様、雲の上のような存在なのだ。
そんな憧れの人の側で暮らすなど、彼らにとっては未だ夢心地のような感覚である。
――ただ、一人を除いては。
「七瀬さん。どうかしたんですか?」
「…一織……いや」
なんでもない、と言って笑った陸の顔があまりに悲しげで、一織は眉根を寄せる。はしゃぐ六人とは反対に、陸だけは一人、浮かない表情で窓の外を眺めていた。
それがなんでもない時の顔なわけがないだろう、と心の中で突っ込みをいれてから、一織は続けた。
「皆さんがはしゃいでいる理由と、関係のあることですか?」
「……ああ……うん……あるといえば、あるけど……」
「なんですか。話してください」
「……でも……俺が言っていいのかどうか、まだわからないから……」
そう言って肩を落とす陸に、一織ははぁ、とため息を吐いた。