第3章 交錯する想い
零を寮まで送り届けた後、百は天を家まで送っていた。
「百さん、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそだよ!天が電話くれなかったら、大変なことになってた」
「でも百さんがいなかったら、零を助けてやれませんでした」
「だからお互い様!」
「……はい」
「あんなに焦る天の声、初めて聞いたから、びっくりしたよ」
「…そうですね。ボクもあんなに取り乱したのは生まれて初めてです」
そんな会話をしながら、そろそろ天の家が見えてきた時だった。
「……百さん、一つ聞いていいですか」
「うん、何?」
「……零のこと、好きなんですか?」
天の問いに百は僅かに瞠目してから、すぐに八重歯を出して笑い、言った。
「好きだよ。」
「……そうですか」
天が返事をしたのと同時に、車が停まる。丁度九条家に到着したのだ。
天は車を降りてから、口を開いた。
「百さん、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそだよ!疲れただろー?ゆっくり休んで!」
「はい。百さんも」
「うん!またね、天!おやすみ」
百が笑顔でそう言うと、天も優しく笑いながら「おやすみなさい」と小さく答えた。
「……ほんと、強敵」
ぼそり、と呟いた独り言は、車のエンジン音にかき消される。車が見えなくなるまで、天はずっとそこに立ち尽くしていた。