第3章 交錯する想い
零は天に寄りかかりながら、天の肩からなんとか顔をあげる。
そこには、泣き叫びながら土下座する梢を、返り血を浴びた百が見下ろしていた。
『百……?』
目の前の光景に、零はただただ言葉を失った。
地面でうずくまっている男たち。土下座をする梢。おしぼりで返り血をごしごしと拭いている百。何もかもが異常で、悪い夢でも見ているんじゃないか、と。
「あのさ、キミの土下座なんてなんの価値もないんだよね。……何もなかったからよかったものの、零に何かあったらどうしてくれるの?」
百の言葉に、梢は言葉にならない声で謝り続けている。
そこにいつもの優しい百はいない。
『……百っ……もう、いいよ……!』
零の振り絞るような声に、やっと百が振り返った。
振り返った百は、いつもと同じ優しい顔で安心したように笑った。
「……零。遅くなってごめんね」
『……ううんっ……ありがと……二人、とも……』
言いながら、涙が溢れてきた。
意識がはっきりしてきて、自分がどんなに恐ろしい状況にいたか徐々に思い知らされる。
そんな場所に、二人は危険を覚悟で助けに来てくれたのだ。背負うものだって、人一倍多いはずなのに。
恐怖とか、感謝とか、安心とか、いろんな感情が混ざって、瞳の奥底から湧き出てくる涙がとまらなかった。
「うわっ!ちょっと零、泣かないで!?」
「零!もう大丈夫だから!」
百と天が、必死に慰めてくれる。
――不思議だ。ついさっきまで、震えあがるくらい怖い思いをしていたはずなのに。
二人が今こうして側にいてくれてるだけで、どうしてこんなにも、温かくて、安心するんだろう。
『うん……ごめん……、二人が助けに来てくれただけで、私、もう十分だよ』
零の言葉に、百は困ったように笑ってから、梢に向かって口を開く。
「だってさ。よかったね。零はキミと違って、心も綺麗なんだ。よくわかったろ?……消そうと思えばいつでも消せる。それを理解した上で、今後の行動を改めなよ」
百はそういって、冷めた瞳で梢を見下ろすと、耳元で、小さな声で囁いた。
「もう二度と零に近づくな」