第3章 交錯する想い
「……殺してやる」
凍るような冷たい表情と声に、梢は肩を震わせ泣きだした。
そして、天が顔をあげればそこには、最後の一人をぶん殴った百が立っていた。四人いた男たちは、頭から出る血を押さえながら、床に丸まっている。
「百さん……」
百は顔にかかった返り血をテーブルの上にあったおしぼりでぶっきらぼうに拭いてから、静かに梢の前に立ち、口を開いた。
「……よくも零にこんなことしてくれたね。二度と表に出てこれないようにしてあげないと」
百から滲み出る異様な殺気に、梢はがたがたと体を震わせている。あまりの恐怖に、言葉を発することすらままならないようだ。
「……天、どうする?警察に突き出す?」
「……それじゃあつまらないでしょう」
「だよね。じゃ、ここで消そう」
百は言いながら、口の端をあげた。
――これは、百のハッタリだった。天も、それにわかって乗ったのだ。警察に突き出すにも、この状況では正当防衛にはならない。警察沙汰になってしまえば、少なからず零も、天も、百も被害を被ることになってしまう。
悔しいけれど、それも芸能人の運命(さだめ)だ。ならば、地獄のような恐怖を植え付けるほかない。
梢の顔はこれでもかというくらい青褪め、目や鼻から水という水が溢れだしている。人間が、真の恐怖に直面した時のそれだ。
「ご……ごめ……ごめん、な…さ……い……!!」
言葉にならない”ごめんなさい”を何度も言いながら、梢は必死に土下座を繰り返す。そんな梢を、百は冷めた瞳で見下ろしていた。
天は、隅のテーブルに置いてあったミネラルウォーターを零に飲ませてやる。
『んっ……』
「大丈夫、ゆっくりでいいから」
『うんっ……ん、』
「うん、いい子。大丈夫?」
『……ありがと……、ごめん……平気、ちょっとましになってきた……』
零はくらくらする頭を抑えながら立ち上がろうとするが、うまく体が動かない。そんな零を押さえ付ける様にして、天は優しく自分の胸に抱きよせた。
『っ天……!?』
「いいから」
『……っ』
朦朧とする意識も、徐々に醒めてきた。ロケの移動中などに効率よく眠れるよう睡眠薬を飲むこともあったためか、ある程度の耐性がついていたようだ。