第21章 もう一度ここから
―――ごめん、百。
私はまた、百を泣かせちゃったね。
いつか、女にしか出来ない事だってあるなんて言った時、百は血相変えて怒ってたね。それなのに、百が嫌うような事を進んでやるなんて、我ながら、駄目な女だなって。そう思う。弱い私にできる事なんて、これくらいしか思いつかなくて。
でも、百を助けるためなら、なんだって出来るよ。なんにだってなれるよ。
時間を稼げば稼いだ分だけ、千ちゃんやおかりん、そしてさっき連絡をいれておいた万理さん達がみんな来てくれるはずだ。だから、今、自分にできる事をする。たとえ自分の価値が、尊厳が、奈落の底に落ちようと。そんなもの、百のためなら、全部、全部、捨ててやる。
「おいおいマジかよ、すげえ!」
デニムをゆっくり脱いでいった零は、とうとう上下とも下着姿になった。
「……んんーー……っ!!んん……っ!!」
百の悲痛な叫びは、届かない。
『…少しは信用してもらえましたか?早く百の手錠を解放してください。私はこの通りどうなっても構いません』
「お前ら、写真と動画だ!てっとり早く順番に回してから、始末すりゃいい!あの零だぜ、ただ始末するだけなんて勿体なさすぎる」
「………―――!!」
男たちが一斉にスマホを手に取った、瞬間だった。
ピリリ、と無機質な着信音が室内に響いた。男のうちの一人が電話にでれば、男の顔はみるみるうちに青ざめていく。
「社長……、はい、はい……え!?わ、わかりました……お前ら、引き上げるぞ!!」
「ええ!?こいつらは!?」
「放っておけ!!急げ、とっとと撤退だ!!社長の指示だ!!」
「クソ……ッ!!」
「ちっ……命拾いしたことに感謝しろよ!!」
男たちは口々に悔しそうにそう言ってから、慌てて部屋から逃げていく。去り際に、手錠の鍵を放り投げて。
ガチャ、と扉の閉まる音がして、一気に部屋は静まり返った。
手錠をかけられ跪いたままの百は、俯いたまま。髪の毛が顔にかかって、表情がわからなかった。百の顔の下の床は、彼の涙でびしょびしょに濡れていた。