第21章 もう一度ここから
「そろそろやるか。こいつも大分朦朧としてきたしな」
百に酒を飲ませ続けていた男が、言った。
「……ん……」
「ふん、寝ちまったみたいだ。楽な仕事だぜ」
「………」
百は酔い潰れて寝た振りをしながら、まだ少し残っている冷静な頭で朦朧と考えていた。事故に見せかけるのなら、手錠をしたまま放り投げはしない。外された隙に、なんとか逃げ出せばいい。けれど、今の状態で真っ直ぐ走れる自信はなかった。安い日本酒やらワイン、スパークリングワインを次から次へと飲まされて、油断すればすぐにでも喉の奥から出てきそう。
そんな事を考えていた、その時だった。
ピンポーン、と、呼び出し音のベルが鳴った。
「誰か来たぞ。モニタを見てみろ」
「……おい、折原零じゃねえか。こいつら別れたんじゃなかったのかよ。タイミング悪いな」
「……零……!?」
男達の口から出たその名前に、百は思わず反応してしまった。
全身が、震えあがるような恐怖が身体中を支配する。もし、この場所に零が来たら――そんな事、想像しただけで、酒だけじゃなく内臓まで吐き出してしまいそうだった。
「なんだ、おまえ!起きてやがったのか!?」
「ま……、まずい。モニタに出させて!オレが応答する」
「何言ってんだ、んな事できるわけねえだろ!?」
「零はまだ合鍵を持ってるんだ!下手したらこの部屋まで上ってくる!来たら、あんたら零に手え出すだろ!?」
「…。どうする、了さんに相談――」
「そんな悠長なことしてる場合か!零が来たらどうするんだよ!?今なら門前払いできる!」
「おまえをモニタに出したら、警察を呼べと言うに決まってるだろうが!」
「言わないし、言ったって、通報する前にオレを助けようとしてあがってきちゃうような子なんだよ…!絶対に追い払うから、通話させてよ!あんたらと今のオレの目的は一緒だ…!頼む、約束するから…!!」
「……。なんて言って追い払うつもりだ」
「酔って寝てたって言うよ!前後不覚で、今は会えないって!それに、俺達もう終わったんだ!だから余計な事すんなって、そう言えば、すんなり帰ってくれるから!」
捲し立てるように必死に百がそう言えば、男がモニタを見ながら眉を顰めた。