第21章 もう一度ここから
「……けほ、けほ……っ」
むせ返るようなアルコールの量に、思わず咳込む。
気付けば、いつか零が選んでくれたルームフレグランスの匂いも感じなくなってしまうほど、室内はアルコールの匂いでいっぱいになっていた。
「大分飲んだね。それじゃあ、お別れだよ、モモ。さすがに事故現場にはいられないからね。もし、君が改心して、僕に命乞いをするのなら……」
「うるせえ、くそったれ」
言いかけた了の言葉を、百は吐き捨てるように遮った。
「……やば、酔って本音出ちゃった。許して、了さん!あんたの犬だよ、わんわん!」
「モモ、わざとだろ?」
「違うって!ていうか、了さんが三人に見える……」
「ふん…。まあいいさ。これから起きるあらゆる不幸を想像して、ゆっくりと青褪めていけばいい。再び相棒を失った千は、呪われた我が身を嘆くだろうね。お前の後輩も双子の正体がバレてめちゃくちゃになる」
「…っ、先手は打ってある。あんたが何をしたって、フレンズデイの時みたいにしくじるだけだ」
「……嘘だ」
「嘘だと思うならやってみな。今度こそ、あんたは笑いものになる。あんたの家族も、あんたを笑うよ」
「……わかった。双子の件には触れないでおこう。おまえは姑息な男だからな。…ああ、そうだ。最後にひとつ。お前の愛してやまない零は、僕が代わりに骨の髄までしゃぶりつくして堪能しよう。さよなら、モモ」
「……―――っ!!」
バタン、と扉が閉まる。
追い駆けようにも、手錠で繋がれている両手と男達に取り押さえられているせいで、一歩も動くことなんて許されない。
「さてと。社長の車が出てから仕事に取り掛かるか。立て」
「……っ、離せ……!」
―――まずい。マジでヤバイかも。
本能が、そう直感した。
バンさん。
オレ、陸たちを守れたかな。
ユキ――あんなかっこつけた事を言っておいて、オレは、また、ユキを一人にしてしまうのかな。Re:valeとしてこれからもずっと一緒に歌っていくって、決めたのに。
零――約束、守れなくてごめん。話、聞いてあげられなくてごめん。こんな事になるなら、情けない姿を見せてでも、ちゃんと、零の口から話を聞いてあげればよかった。
二人とも、ごめん。
ごめん――――。