第21章 もう一度ここから
『お疲れさまでーす……ってあれ、万理さんいない』
零が雑誌の撮影を終えて控室に戻れば、いつも出迎えてくれる万理の姿は其処にはなかった。代わりに机に一枚のメモが置いてある。編集長の元へ挨拶に行っているので、帰ってくるまで此処で待っているように、との置き書きだった。
『ふむふむ。私も行かなくて大丈夫だったかな。…あれ』
メモから顔をあげれば、控室のドレッサーの前でスマホが振動していることに気付き、慌てて手に取り画面を見やる。画面には、千から何件も着信が入っていた。なんだか嫌な予感がして、慌てて駆け直した。
『……もしもし、千ちゃん!?ごめん、今仕事終わった…どうしたの!?』
≪零…!モモから連絡きてない?≫
『え…?来てないけど……なんで?百に何かあったの!?』
≪トウマくんと会いに行くって出て行ったきり、連絡がないんだ。何度掛けてもつながらない……今ZOOLは生放送に出演してて、僕は今から其処に向かってトウマくんに事情を聞く≫
ひどく、胸騒ぎがした。
どきどきと心臓の脈打つ音がリアルに聞こえてくる感じ。
脳裏に過ったのは、あの男――了さんの不気味な笑顔だった。
『……私も探す!!何かわかったらすぐに連絡して!!私もすぐに連絡するから!!』
≪待って。零、おまえは一人で動いちゃ駄目だ。今何処のスタジオにいる?おかりんを向かわせ――≫
『ごめん、黙って待ってなんていられないよ!!』
千の言葉を待たずに、零はそのまま楽屋を飛び出した。
――万理さん、千ちゃん、ごめんなさい。
思えば自分は、大切な人達との約束を破ってばかりだな、と心底嫌になった。けれど、今は、どうしても、居ても立ってもいられなかった。行かなきゃいけない気がした。このまま黙って待っていたら、今度こそ、本当の意味で――百を、失ってしまう気がして。
スタジオを飛び出し急いでタクシーを拾って、零が真っ先に向かったのは、百の家だった。