第20章 掻き混ぜ零れゆく
「本当だよ。そういう人種は、軒並み言葉が通じないんだ。モモがいくら大事な言葉を投げかけても」
「………」
「自分のルールだけが正しくて、大事な友達の忠告さえ鬱陶しがる獣だ。何もかも失うまで、神様気取りで君臨する。厄介なのは、そいつが滅びる時に、周りまで巻き込んで滅んでいくことだ。ひとりで消し炭になればいいのに、隣人にまで火の粉を浴びせて焼野原にする。……万の顔の傷がそれだよ」
「……ユキさんは、悪い人じゃなかったよ。昔だって」
「悪い人だったよ。僕のせいで万が殴られても、悪いのは殴ったヤツだけだと思ってた。たとえ気まずさを覚えても、僕の尊厳を守るために見ないふりをした。時間がすぎて、傷痕が消えるのを待って……消えない傷ができるまで、わからなかった。気にしないあいつに甘えて、僕はごめんなさいも言わなかったんだよ」
「………」
「月雲が自滅するのはどうでもいい。自衛隊に囲まれた怪獣みたいに、無様にやっつけられてしまえばいいけれど。おまえや零が巻き添えになるのは絶対に嫌だ」
「……あはは、大丈夫だよ!オレ、高層ビルじゃないから!どしーんって倒れる前にひょいっと零を抱きかかえて避けるし!」
「スーパーマンみたいに?」
「そうそう!光線出して応戦するよ!オレはユキと、零のためなら……スーパーヒーローにだって、凶悪な怪獣にだって、なってみせるさ。」
笑顔でそう言った百の背中を、千は少し不安げに見送った。