第20章 掻き混ぜ零れゆく
――それから。
フレンズデイを終えて、IDOLiSH7やTRIGGERの人気が急上昇し、順調かのように見えた矢先――。
「――MOPを辞退だと!?どうして、せっかくの――!!」
ツクモプロの社長室で、トウマの声が響いた。
そんなトウマを宥めるように、了が微笑みながら口を開く。
「Re:valeの辞退に乗じたんだよ。上位のグループが2グループも抜ければ、MOPの権威も落ちる。そして、不自然に難易度の下がった賞レースに、みなは疑問を抱き始めるだろう」
「疑問って?どんな?」
「ヤラセですよ」
悠の問いに、巳波が答える。
「TRIGGERが干されて復活するまでが、仕組まれたもののように映るんです。八乙女プロの話題作りだとかね。どちらにしろ、盛り上がりに水は挿されます」
巳波の言葉に、了がにやりとほくそ笑んだ。
「栄光までの道は厳しい。だが、泥を塗る方法はいくつもあるんだ。どの色に黒を混ぜても濁るようにね。MOPのTOP争い…おそらく、IDOLiSH7とTRIGGERの1位を巡る対決になるだろう。そこそこ、感動できるステージになるかもね。だから、MOPが終わった後、バラしてあげるよ。――九条天と七瀬陸は双子。べたべたの馴れ合いの上、仕組まれた、身内遊びの勝負だったって、みんなはがっかりするだろうね!十龍之介と花巻すみれの一連の騒動に、音楽祭のドタキャン。お似合いカップルなんて世間から騒ぎ立てられてたRe:valeからみんなのアイドル可愛~い零を泥沼略奪愛報道。加えてこの話題が出ればもう、彼らに道はない」
愉しそうにそう言う了の言葉に、一人浮かない顔をしていたトウマが続いた。
「……。……了さん、陸を気に入ってたんじゃなかったのか」
「気に入ってるよ!だからこそ、二度とTRIGGERの歌を歌う気なんか起こさないようにさせるんだ。秘密って言うのは、持ってるだけで弱みになるんだよ。隠せば隠すほど、なにか悪い事をしていたんじゃないかって、思われるようにできているんだ。これで二度とTRIGGERの名誉は回復できない。はは……!全部おしまいだよ」
いつまでも室内に響く了の笑い声を聞きながら、トウマはぐっと拳を握りしめた。
「………んだよ」
小さく浮かんだ悔しげなその声は、誰の耳にも、届かなかった。