第20章 掻き混ぜ零れゆく
「あ、そうそう!フレンズデイの衣装着た零、超可愛かった!」
その場の空気を変えるように、百が突然言った。
百からの”可愛い”なんて、挨拶みたいなものだとわかっているのに、改まって言われるのはなんだか久しぶりな気がして、どきっと胸が鳴る。
『…っ、は!!み、みんな同じTシャツだったじゃん!?』
「そのTシャツが、すっごい似合ってたの!本当零ってば、何着ても可愛いなぁって。…なんかさ、ユキがいつも零は妹みたいに可愛いって言ってる意味が、オレにもわかってきたよ!」
笑顔でそういう百の言葉に、今度はちくりと胸が痛んだ。
――妹。家族のような、という、そんな意味なのに。千にそう言われると、すごく嬉しい言葉の筈なのに。百にそれを言われると、息が詰まったみたいに苦しかった。
『いもうと……』
「―――あ、ユキが帰ってきた!よし、三人で飲み直そう!オレグラス取ってくる!」
遠くなっていく百の背中に伸ばした手は、空中を掠った。
――わたしは今、どんな顔をしているんだろう。
折角大きな仕事を終えて、打ち上げの延長の場だというのに、楽しい場を、ぶち壊すわけにはいかない。
瞳の奥まで込み上げてきた熱いモノをなんとか引っ込ませるように上を向いて、ぱちん、と両頬を叩いた。
大丈夫。ちゃんと笑える。
自分に暗示をかけるように心の中でそう唱えてから。
大好きな人に向かって、精一杯、笑った。