第3章 交錯する想い
『お疲れ様でしたー!』
特番のラジオ収録を終え、スタッフたちに挨拶をして楽屋へ戻ろうとスタジオを歩いていれば。後ろから、聞き覚えのある声がした。
「零さーん!」
振り返ってみれば、そこにいたのは山南梢だった。
『梢ちゃん…?Aスタで収録?スタジオ一緒だったんだね!』
「はい!歌番の収録だったんですよー!零さんも今から帰りですか?」
『お疲れ様!うん、今から帰るところだよ』
「じゃあ今から飲みに行きましょうよー!!私、今日すっごい嫌なことあって、むしゃくしゃしちゃって。聞いてほしいーっ!」
『えっそうなの?大丈夫?あー……でも今日、これから予定があって』
「えーっ!!そこをなんとか!!頼れる先輩、零さんしかいないんですよ~!!」
瞳にうるうると涙を溜める梢に、零の心はうっ…と痛んだ。
友達が少ないと言っていたことを思い出し、はっきりと断るのは、なんだか少し心苦しい。自分を慕ってくれてるのに、裏切るような真似はできない。けれど。
『うーん……あ、じゃあ一本電話いれていい?ちょっと待ってて』
「了解でーす!私も西麻布にある行きつけの店、予約しておきますね!」
そういって、梢はぱたぱたと駆けて行ってしまった。
その小さな背中を見送ってから、零は携帯を取り出し、電話を掛けた。