第19章 夜明けの譚詩曲
『大人になったんだよ!ね、千ちゃん』
「そうね。もう結構な人数になったよ」
「まだ足りないよ。失敗はできないから。少人数で立ち上がって潰されたら、次のチャンスが来るのは数年後になる。この名簿が、オレたちの命綱だ。この人たちが、ユキと零を守ってくれる。だから、オレたちでこの人たちを守ってあげようね」
「ああ。任せて」
『……うん』
少し不安そうに頷いた零を見つめてから、百はそっと零の震える小さな手を、安心させるように両手でぎゅっと握った。
「大丈夫だよ。零はみんなのアイドルなんだから!零の言葉は、魔法使いの呪文になるんだよ。だから、みんなを励ましてあげて」
『百みたいに?……私にできるかな』
「オレよりうまいって!オレが今まで、どれだけ零の言葉に救われてきたと思う?零に優しい言葉をもらった分だけ、みんな、零を好きになるから。零を支える力になってくれるからさ。バンさんがいて、マネ子ちゃんがいて、おかりんがいて、TRIGGERも、IDORiSH7もいて、ユキとオレがいる。零はもう、人見知りで下ばっかり向いてるひとりぼっちなんかじゃない。まわりの人を大事にして、まわりの人に大事にされてきただろ?優しい零が作った世界だよ」
『……百が連れてきてくれた世界だよ……。百が運動部を作ってくれたから。私の手を引いてくれたから。それがなかったら、私はずっとひとりぼっちのままだった。家族が借金抱えて、大好きだった幼馴染とも離れ離れになって、どん底で、塞ぎ込んで、悲劇のヒロインみたいな顔して、下ばっかり向いてた私に、百は笑いの絶えない居場所をくれた。私の幸せは、全部、百にもらった幸せなんだよ。今でもたまに、怖くなる…。もしあの日、偶然百が私に声を掛けてくれなかったら……あの日、偶然通りかかったのが私じゃない、別の誰かだったら――』
言いかけた零の言葉を遮るようにして、百は握っていた零の手をぐいっと引いた。バランスを崩した零を支えるようにして、百はそのまま優しく抱きかかえる。