第3章 交錯する想い
「わかりました。あまり時間は取れないので手短にお願いします」
「えっ!?ちょっと天!?」
「おい天!!」
わけがわからない、といった様子の楽と龍をアイコンタクトでなだめてから、天は梢と共に楽屋を後にした。
* * *
「……それで、ボクに何の用?」
ひと気のない、Aスタジオの休憩ルームで天が言った。
梢は、天と二人きりになれたことが余程嬉しいのか、にこにこと笑っている。
「えっと……私、ずっと前から九条さんに憧れてて……アイドルになろうと思ったのも、九条さんがきっかけなんです!」
「それはどうもありがとう。でもそういう事は、ファンレターに書いて送ってくれる?二人で話すなんて、他のファンの子たちに悪いから」
「……でも、どうしてもお話したくて……」
梢は、大きな瞳にうるうると涙を溜め始めた。世の中の男は、これにころっと騙されてしまうのだろうか。そうだとしたら、同じ男として恥ずかしい。天はうんざりとそんなことを思いながらため息を吐いた。
「で、零のことって何?」
「……呼び捨て?ファンって言ってましたよね?親しいんですか?」
「……別に。ファンの子たちがボクのこと天っていうのと同じでしょう」
「…ですよね!零さんは九条さんのこと全然興味なさそうでしたし。九条さんが零さんのファンだって言ってたから、私NEXT Re:veleで九条さんの話題出したんですよっ?でも、全然興味無さそうに話題変えられちゃいました」
「……そう。それで?キミは何が言いたいの?」
天の苛立ちは、限界頂点一歩手前だった。
普段ならば、どんなにむかつく共演者だろうと笑顔で交わしているのに。零のこととなると、冷静でいるのが難しい。その上、この山南梢という女が、どうしようもなく苦手で大嫌いなタイプの女なのだ。
「話が終わったなら、もう戻るから」
これ以上、この女と同じ空気を吸っていたら気がおかしくなりそうだ。天が楽屋へ戻ろうと梢に背を向けた時だった。咄嗟に、後ろから抱き着かれた。
「なっ!」
「待ってください!」
「…っ離せ!!」