第3章 交錯する想い
―――その頃。
同局の別スタジオでは、歌番組の収録中だった。
そんななか、TRIGGERの楽屋にノックの音が響く。
「――失礼します。山南梢です。挨拶よろしいでしょうか」
扉の外から聞こえてきた声に、天は顕著に顔を歪めた。
「あ、あはは……天、そんな顔しなくても……今日、共演するんだし」
「勿論本番中にはしないよ。それなら文句ないでしょう」
龍の言葉に、天が不機嫌そうに返す。
楽が肩を竦めてから、「どうぞ」と返した。すると、山南梢が扉を開け、ぺこりとお辞儀した。
「失礼します!今日はよろしくお願いしますっ!あと……九条さん、この前はすみませんでした……っ!それを謝りたくて」
楽と龍には、健気に一生懸命謝る女の子に見えるが、天からすれば猫かぶりのかまとと女にしか見えなかった。天は仕事用の顔で笑いながら、静かに口を開いた。
「いえ。今後このようなことは二度とないようによろしくお願いしますね」
「(天……目が笑ってない!怖い!)」
「はい……勿論です!九条さん、少しお時間如何ですか?お二人でちゃんとお話ししたいのですが……」
梢の言葉に、楽と龍は顔を見合わせた。
どことなく誘ってくる女性芸能人は大勢いたけれど、ここまであからさまに誘う人は初めてだったからだ。
けれど、天は特に驚く素振りも見せず、淡々と答えた。
「二人きりでしか話せないような会話をする仲ではありませんよね?お話なら、ここでどうぞ」
「ちょ、ちょっと天……!」
「おいおい、言い方……」
あまりに冷たい言い方に、龍と楽が慌てる。天は変わらず笑顔のまま(目は笑ってない)だ。
けれど、冷たい言い方をされたにも関わらず、梢は平然としている。じっと天を見てから、彼女は口を開いた。
「零さんのお話でもですか?」
梢の口から出た名前に、天の顔から笑顔が消えた。
固まってしまったように動かなくなる天に、楽と龍は眉根を寄せた。
「ん?なんで零さんの話題が出てくんだ?」
「?天?」
どこか様子のおかしい天を心配する龍。天は、小さく「ちっ」と舌打ちをしてから、ソファから腰を上げた。