第18章 奏でるモノクローム
『……。…ごめん……なんでもない』
「……嘘つけ。どうしたの?何かあった?」
仕方なさそうに眉を下げながら優しく笑って、百がゆっくりと近寄ってくる。顔をあげれば、思ったより百の顔が近くて、綺麗な躑躅色の瞳と目が合った瞬間、思わず息が止まりそうになった。
『……っ』
「零?……本当にどうしたの?具合悪い?」
言いながら、百がそのままゆっくり顔を近づけてくるものだから、思わずぎゅっと目を瞑った。すると、おでこにこつん、と百のおでこが当たった感覚を感じて。
「……ちょっと熱いよ。もしかして熱あるんじゃない?…おかりん!体温計ある?」
「ちょっと待っててください!すぐに持ってきます!」
『……な、ないよ、大丈夫っ!』
恥ずかしすぎて、目なんて開けられない。目を瞑りながらそう言えば、百はそっとおでこを離してから、今度は左手をそっと取った。
「脈も……早い気がする。やっぱり、熱あるって。顔も赤いよ。大丈夫?オレの薬でよかったら、飲む?確か風邪薬、あったはず――」
『大丈夫、大丈夫!!』
――体が熱いのも、脈が早いのも、顔が赤いのも。全部、全部、風邪なんかじゃなくて、百のせい。
こんなことを知ったら、きっと。あなたをまた、困らせてしまうんだろうな。
『本当に大丈夫だからっ!!』
「……無理してない?」
『してないっ!してないよ!!全然元気だし、体調もばっちりだよ!』
「……本当に?」
『本当っ!!』
騒がしく言い合いをしていれば、隣で座りながら寝ていた千が瞼を擦りながら口を開いた。
「……もう時間?」
『あ、千ちゃんおはよ!!』
「……おはよう。あれ、零、どうしたの。顔真っ赤だよ」
『っ!?』
「でしょ!?赤いよね!?熱っぽいんだよ!!」
『だから熱なんてないってば!!』
途端に恥ずかしくなって、百と千から顔を逸らした。
じーっとこちらを見る千の視線が痛い。おそるおそる千の方を向いてみれば、千は楽しそうににやりと口の端をあげていた。