第18章 奏でるモノクローム
「おい、天。なんだよそれ」
「……別に。楽には関係ない」
『ちょっと、天、なんでそんな意地悪言うの?楽、これはドーナツだよ』
「ドーナツ?作ったって聞こえたけど、まさかあんたの手作りか?」
『うん…お恥ずかしながら』
「おい天!俺にも一つくれよ!」
「はあ…。だから言うの嫌だったのに」
天は顕著に顔を歪めながら、紙袋をぎゅっと両手で抱き締めた。
「楽はそっちのを食べればいいでしょう。これはボクが零に頼んだものなんだから」
『うん、楽はそっちのを食べた方がいいと思うよ……』
零と天の言葉なんて聞こえていないかのように、楽と龍は瞳を輝かせながら天が大事そうに抱き締めている紙袋を見つめている。
「………」
「零ちゃん…俺も一つ、もらっていいかな…?」
『え……』
「龍まで……」
はあ、と落胆のため息を吐いてから、天は零に向かって仕方なさそうに口を開いた。
「一つずつあげてもいい?」
『いいけど……楽も龍も、私の料理の下手さを知らないじゃん…?i7の子たちだったら、多分誰ひとりとして欲しがらないよ…?』
「贅沢なやつらだな…。零の手作りだぜ?欲しがらない理由がどこにあんだよ」
『…楽……イケメン…!』
「…無駄にかっこつけないで」
「無駄にってなんだよ!?」
言い合う天と楽を横目に、龍がソファに座るよう促してくれる。零がソファに腰掛ければ、隣に天が紙袋を持ったまま腰かけた。
『あ、龍と楽にはちゃんと綺麗な色のやつあげてよ?色の綺麗なやつは、三月くんがお手本に作ってくれたやつだから!』
「和泉三月と作ったの?」
『うん!三月くん、めちゃくちゃ料理うまいから教えてもらったんだ』
「…ふうん」
零の言葉を聞きながら、天はごそごそと紙袋の中身を確認して、龍に色の綺麗なドーナツを差し出した。
「はい、これ…龍の」
「うわあ!ありがとう、天!零ちゃん!」
「こっちが楽の」
「かけらじゃねえか!ちゃんと丸になってるやつくれよ!?」
「恵んでもらってわがまま言わないで」
『意地悪しないの!』
むすっと頬を膨らませながら、天は渋々綺麗なドーナツを楽に渡した。