第18章 奏でるモノクローム
ラジオの収録を終え零と別れてから、次のスタジオに移動し控室に入ろうとしていた時だった。後ろから、聞き慣れた声で名前を呼ばれた。
「百さん!お疲れ様です!」
「おお!三月ー!お疲れさまー!」
百が挨拶を返せば、三月は辺りをきょろきょろと見渡し他に人がいないことを確認してから、百に駆け寄り小さな声で問いかけた。
「……百さん、この前のことですけど…。マジでやるんですか?」
「マジだよ。三月まで、龍みたいなことになったら、オレ、舌噛んで死んじゃうかんね」
月雲了からの被害をなくすために、百は三月と揉めている演技をすることを計画していた。今日の収録には、ZOOLのメンバーも出演する。ならば必ず了が来ると踏んでいた。
了の目の前で揉めているフリをして、IDORiSH7とRe:valeの仲が悪いように見せかける。それはすべて、フレンズデイで何か仕掛けてくるであろう了への対抗策だった。
「気が進まないなあ……。ラビチャでもそうでしたけど」
「これから三月には圧倒的に過保護で行くって決めたから。あ。二つパターンあるけど、どっちがいい?」
「どんなのがあるんです?」
「ひとつめはね、オレが三月にガチなセクハラして振られたっていう……」
「ふたつめでお願いします」
百のボケに素早く突っ込む三月。
「でも、演技だとはいえ、緊張するなあ……」
「大丈夫、大丈夫!変なことに巻き込んでごめんね」
「いやいや!そんなこと全然思ってませんから!」
続けて、三月は思いついたように言った。
「あ!そういえば…ドーナツどうでした!?」
「え?」
「零ちゃん、徹夜で頑張ってたんですよー。いいなあ、百さん。羨ましい!」